2006年8月15日火曜日

地震の夢

2006年8月分より

近頃、世界各地で大きな地震が多発しています。私が暮らす福岡でも2005年は長く余震の緊張にさらされました。けれどその間、身近な所では、地震そのものではなく「違う形の怖い夢」を見る人が目立ちました。「直視が辛い時には直接的な形では表れない」という夢のやさしさの一例に思えました。


Tさん 45歳 男性
仕事を辞め、地方に引っ越す前に見た夢です。近所に住む友人Aとの待ち合わせ場所に向かっている。しかし、すれ違いになったらしい。場面が変わって、私は、Aがいつもの満員電車に乗っているのを、どこかから見ている。すると急にぐらっと大きく揺れた。「地震だ」と解かる。高層ビルが倒れたりしている。「大変だ、どうしたらいい?」と考えている。


Hさん 37歳 女性
このごろあまり会いたくない友人、Kの家にいる(現実の家とは違う)。壁や柱が薄くて、舞台セットのような家。Kはいない。急に、壁が左右にゆさゆさ揺れる。床も揺れて「地震だ」と思う。「家が倒れる」と思ったら壁が私に向かってきた。でも、丁度窓があいていたので、その空間を通り抜けた。私は無事に立っていたが、ベニヤのような壁が私の周りに倒れていた。Kの家はつぶれて、更地になった。

夢解き

Tさんは、間もなく生活基盤が変わります。まさに「立場や、踏みしめている足元が揺らごうとしています。それが「地震」として表れた夢です。

今後Tさんは「近所に住む友人」とは住む世界が変わり、同じ電車に乗ることもなくなります。倒れる高層ビル=都会の暮らしを暗示するようです。

今までの生活のレールや生活圏から外れることや、一新する生活の不安が「どうしたらいい?」に重なっているのかもしれません。

Hさんの場合は、これまでの価値観や関係性を一掃=「更地」にして、リセットするために夢の中で「地震」が起きました。「Kさんの家」=「Hさんの中のKさんへの思い」です。

表面的な付き合いなので「舞台セットのような家」なのでしょう。限界がきたので、基盤が揺らぎ、「家」が崩壊しました。Hさんに怪我はなかったので、付き合い方や態度を改めても心配はいらないでしょう。

地震の夢は変革の最中や、過渡期に表れやすいものです。今までの価値観や意識、感情などを捨てなくてはならない時に、文字通り「揺さぶり」が掛けられ、それが「地震」になります。また、自分で変わっていこうとする時はもちろんですが、自分の意思とは関係なく起こる変化を察知している時にも現れます。

「揺れの大きさ」は、変化の必要性や、新しくなるために必要なエネルギーの大きさと一致することが多いようです。印象に残りやすい夢なので、目覚めて不安になる人も多いようですが、本来は、心機一転、新しい展開が期待できる「大きな変革」=「地殻変動」の夢なので、よい夢に分類されます。柔軟に適応する意思さえあれば、「飛躍の前兆の夢」と歓迎できます。

ただ、別の訪れ方としては、伸ばしたり曲げていた体の一部が、小さく落ちたような場合に地震の夢になることもあるようです。 また、寝ている間に、目覚めるほどではない小さな地震が起きた時に、地震の夢を見ていることもあります。念のため目覚めたら地震情報をチェックしてみるのもよいかもしれません。

また、他の出来事に比べて、夢で地震を予知する人は割と多いようです。動物たちが磁場の変化等を察知して早くから脱出するように、睡眠中の無意識は活発で、それらを感じ取れるのかもしれません。  

2006年7月25日火曜日

遅刻する夢

夢の実例~2006年7月他誌寄稿分より

遅刻の夢は、日ごろから遅れない人や、きちんと備える人に多く見受けられます。むしろ「遅れる夢で起きたら、寝坊していた」というケースは少ないと思います。実際に「遅刻だ!」と飛び起き、本当に遅れていたら、夢を記憶しているどころではないので忘れているのかもしれませんが。

Iさん(67歳・男性・無職)の夢
すでに退職し、今は趣味に熱中していますが、時々、現役時代の自分が遅刻をする夢を見ます。仕事先に向かいますが、電車を間違えたり、忘れ物を取りに戻ったり、なかなか着きません。かつての大変だったプロジェクトをまだ片付けていて、それに遅れる夢だったこともあります。目覚めた時には「夢でよかった。今は時間に追われなくなって幸せ」としみじみかみしめます。

Oさん(40歳・女性・司会業)の夢
大きな仕事を引き受けた時に見た夢です。
仕事の現場に向かっている。時計を見ると、開始時間まであと10分になっている。絶対に間に合わない。近道したり、電話で連絡しようとするが、道には迷うし電話も繋がらない。おまけに普段着なので、これでは仕事に行けない。時計を見ると、ついに開始の時間は過ぎていた。私は結構パニック状態。

夢解き

Iさんには「やりたい事に熱中できる時間は、どれくらい残されているのか」という不安があるようです。今を生きることに意欲的なだけに、「もっと若ければ、こうできたのに」という思いもあるのかもしれません。

「衰え」や「死」というゴールに「間に合いたくない」、堂々巡りできつくても、「現役時代のように動き続けられる自分のままでいたい」という思いが「遅刻」として現れています。

また、苦しかった時を追体験するのは「今は当時とは違う」と確認するためです。「今」への感謝の気持ちを繰り返し実感することで、少しずつ人生への納得度合いを深め、新しいペースを作っている最中なのかもしれません。

一方、Oさんの「大切な仕事」は、まずは「遅刻厳禁」です。もちろん「ちゃんとやり遂げなくてはならない」のですが、初めての大きな仕事で、不安で一杯です。「道には迷うし」=実力不足から、取り残される心配もあったのかもしれません。

気にしている「時計」や「時刻」は、正確に刻むもの=「完璧主義」の意味もあり、自分へ要求の高さからの緊張もありそうです。 ただ、この焦りや不安を夢で体感したことで、冷静さを取り戻せました。自分の心の状態を把握させることがこの夢の仕事だったようです。

追われる夢の回で「自分が追いたいものに追われることがある」とご紹介しましたが、「遅れる夢」にも似たところがあります。夢では「たどり着こうと必死」でも、実は「行きたくないのが本音」という場合です。現実ではあまり意識されていなくても、無意識では「出来れば避けたいこと」があるのかもしれません。

でも、夢で遅れたからといって「現実の課題や問題が失敗するのではないか」と心配する必要はありません。「やりたいのだけれど、腰が引ける」ということもあるでしょう。しかし、もう一人のアナタが「自信をもって、すぐにできることから準備を始めて!」と依頼をしていると、とらえてみてください。

2006年7月15日土曜日

トイレの夢

夢の実例~2006年7月他誌寄稿分より

琉球のトイレには、フールヌカミと呼ばれる神様がいます。外でついたよくないものを取り除いてくれたり、なくし物をさがしてくれるそうです。夢の中のトイレも、無意識に取り込んだ物を整理し、心身両面の大切なものを取り戻す仕事をしてくれます。トイレは、いつもきれいにしておきたいですね。

Mさん(37歳・女性)の夢
たくさん個室が並ぶ外出先のトイレ。満員ではなさそうだが、なかなか入れない。やっと入ったが、中はとても汚い。さらに便器から水や汚い何かが溢れてくる。気持ちが悪いので、用を足さずに出た。

Yさん(46歳・女性)の夢
実家のトイレ(戸外)に行きます。母屋を出て廊下を通りトイレに入ります。便器に座ると、得体の知れない何かが入って来ます。それが怖くてすぐに部屋に戻ります。現実でも子供時時代は、特に夜のトイレが怖く、今でも、トイレにゆっくり入るのは苦手です。

夢解き Mさんの夢では、舞台が「公的なトイレ」なので「外での出来事や対人関係」に、すっきりさせたいことがあるようです。「たくさんの個室」なのに「入れない」のは、本心では、まだ1人になり「自分と向き合いたくない」か、または「問題を人のせいにしていたかった」のかもしれません。中に入ってみても「汚い」ので、やはり自分と対峙する準備はできていなかったようです。

溢れてきた水は、Mさんの感情の「逆流」のようなものでしょう。便器は、自分の体を意味する場合もあり、自分から出てくる、感情や欲求、或いは自己理想像とは遠い姿を「気持ちが悪い」と否定したり、ありのままを認めたくなかったのかもしれません。

Yさんは、既に実家を出ています。そこで当時をよく振り返ってもらいました。するとトイレより、廊下の途中にある両親の部屋を避けたかったことや、親が争う声がトイレに伝わってくるのが嫌だったことを思い出しました。これが「どこからともなく入ってくる怖いもの」だったようです。

トイレには、プライバシーやリラックスの意味もあります。いまだに夢に現れるのは、当時の緊張が現在にも影響しているからでしょう。「ゆっくりトイレにいられず」=「リラックスして、トイレで捨ててよい感情を上手に処理できず」「すぐに自分の部屋に帰る」=「自分の殻に閉じこもったり、溜め込みすぎる」のが、Yさんの課題なのかもしれません

トイレの夢では、基本的に「きれいなトイレで用をたして、すっきりした」という印象があると、現実にもコンディションがよかったり、物事がうまく運ぶ場合が多いようです。夢主の「心の浄化処理場」ともいえるトイレが「きれい」=「きちんと機能している状態」であれば、ストレスは流され、心身ともに健全でいられる、と云うことなのかもしれません。

逆に汚いトイレは、感情や不要になった考えやストレスが整理できずにいる状態を表します。また詰まったトイレや、トイレで排泄を拒むのは、固執や執着を表すことが多いようです。しかし、古典的な夢占いでは、排泄物そのものが金銭を意味し、トイレに溢れているのは思わぬ金運の到来という説もあり、どう受け取るかは夢主次第です。

また「プライバシー」や「個性」の意味もあり、「トイレに行けなかったり、入っても落ち着けずにすぐ出てしまう」なら、リラックスできない日常や、自己表現が上手くできない状態を表す場合もあります。 ただし、「用を足せた」としても、それがトイレ以外の場所なら、自分で処理しなければならない感情等を、お門違いな所でまき散らしている心配があります。

ただ、ここでも例外があるように思うのは、男女差です。 私が伺ってきた夢の中では、トイレが登場する割合は、どちらかというと女性の方が多いようです。男性の小便器は個室ではなくオープンなので、心理的位置付けが違うのかもしれません。トイレ以外の場所で用をたした経験を持つ男性も多いので、象徴というより、尿意からの夢が目立つように思います。ともあれ、生理や本能が関わる場所なので、性差はもちろん、各人の習慣を考慮しながらたどりたい象徴です。

2006年5月22日月曜日

探す夢

夢の実例~2006年7月他誌寄稿分より

映画「風と共に去りぬ」のヒロイン・スカーレットは、「霧の中で、何かを探してさまよう夢」を繰り返し見ます。うなされて目覚める彼女を、夫レットが抱きしめて言います。「お前が幸せになってくれればそんな夢は見なくなる。俺が幸せにする。」彼女は「探していた何か」を、映画の最後でやっと確認します。

私事ですが、ずいぶん昔に見たきりで、物語はうろ覚えなのに、何とも遣る瀬ない、この夢の顛末だけが鮮明に残っています。夢の中での探し物は、早く見つけておきたいものです。

Aさん(37歳・男性)の夢
中学時代から、今も時々見る夢です。何か大事なものを必死になって探している夢です。ゴミ集積所の様な場所でひどくあせりながら、ゴミをかき分けて探していたこともあります。何を探していたのか、具体的なものは思い出せません。しかし、とても重要なものである、という意識は夢の間中感じています。大抵の場合、探し続けて夢は終わります。

Kさん(41歳・女性)の夢
職場の皆と宴会に出席している。お座敷だったようで、帰る時に、皆は靴をはいている。私の靴だけがなくて探し回る。見つからずに眼が覚めた。

夢解き

Aさんはこの夢を、学生時代には試験や宿題に追いつめられた時、最近では仕事がハードな時に見たそうです。試験前や宿題が山積みの時なら「解答」を必死に探し、仕事がハードな時なら「任務完遂の手立て」を探していたのかもしれません。

しかし少し気になるのは、ゴミの中を探していた時です。ゴミは「不要なもの」、そして、夢の中の光景は「夢主の内面世界そのもの」なので、「してきたことや、自身の能力は役に立たないことばかり」と、自信が持てずにいたのかもしれません。

 けれど、世間的には「ゴミ」でも、常識に縛られない「夢の島」にはとんでもない宝の元が眠っている事があります。大きな発明や発見は、えてして非常識な発想から生まれます。周囲から「ゴミ」として片付けられ、Aさんも同調して捨てた考えの中に「とても重要なものがある」と感じていたのかもしれません。

いずれにしても、客観的に「今あるもの・ないもの・今後必要なもの・本当の目的や希望」等をリストアップして、大掃除が済めば「探しもの」は見つかることでしょう。

一方Kさんは、はっきり「靴」を探しています。靴には「社会的立場」の意味があります。目覚めたKさんはすぐに「久しぶりだ」と思ったそうです。10年程前、長年勤めた会社を辞め、その後の身のふり方を悩んだ頃に、靴を探す夢が続いた経験があったからです。

当時は、仕事の可能性も探りたい、実家からの独立も考えたい、「自分にふさわしい靴」=「地位や役割」は何だろうと探している頃でした。そして今回は、従事していたプロジェクトの人間関係を発端に、会社の方針に落胆と不信を、又、自分の能力への不安も感じた時でした。かつてのKさんは自分の居場所を探し、今のKさんは「私の靴だけない」=「私だけが評価されていない」という気持ちだったようです。

しかしKさんは、以前の夢以来の「頑張った自分」を思い出して「進みたい道なら、靴がなくとも裸足でも歩いてみよう」と決めました。10年前は「靴」を求めて新天地を目指した彼女でしたが、今回は自身の足で立つことを選択しました。そしてその甲斐があってか、その後状況は好転、むしろ以前よりよい「靴」を手にしたようです。

予知夢

夢の実例~他誌寄稿2006年5月

夢は、貴方から貴方へのメッセージです。もう一人の貴方は、映像や印象として、毎晩それを送り続けてくれます。もう一人の貴方は、現実の貴方よりもっとたくさんのことを知っているようです。目覚めている時の貴方には思いもよらない未来が、後に遭遇する場面とそっくりの姿で送られてくる、それが予知夢と呼ばれる夢です。

Yさん(40歳・女性)の夢
高校時代の夢。「学期途中に、新しい先生が来るいう夢を見た。1ヶ月後、担任が休養、非常勤の先生が来た」「数学のテストを受けた夢をみた。次のテストに同じ問題が出たので解けた」

Aさん(30歳・男性)の夢
「いつものように自転車で通勤する。角を曲がった所で車とぶつかり事故を起した。1週間後、夢と同じ角を曲がると、対向車線で、別の自転車と車が事故を起した場面に出くわした。」

夢解き

20歳頃までは時々予知夢を見たという人は、結構いらっしゃいます。若い頃は行動範囲もまだ狭く、些細な外界の刺激でも、大変な問題のように感じます。そのため「もう一人の自分」の情報収集量も常に多い時期なのかもしれません。更に「私は何者か」を探す頃でもあり、「現実の私自身」も「もう一人の自分」との接触に積極的な時代だからかもしれません。

例えば、多感だったYさんは、意識をしないまま、担任の顔色や動作から体調不良を感じていたのかもしれません。又、「この問題は出す」という雰囲気の先生を、視界に隅に収めていたのかもしれません。もしそうなら、この情報を送ってくれるのが「もう一人の自分」です。これは潜在知覚夢(=潜在的に知覚していた情報により、未来を推測した夢)と呼ばれていますが、本当の仕組みは謎です。

2本目は結末が違う予知夢です。実は、Aさんは、いつもぎりぎりに家を出ては、自転車を飛ばしていました。けれどこの夢以降、早めに出かけ、気をつけて通勤しました。そんな中、遭遇したのが、夢と似た他人の事故でした。Aさんは、夢のメッセージを大切にしたお陰で、自分の事故は回避出来たのかもしれません。自らで予知夢を外したとも云えます。でも「通勤時のその角での事故」は起こりました。

Yさんの夢以上に「潜在知覚夢」なのか「警告夢」(=現在の行動パターンから推測できる危険に注意を促す夢)だったのか、それとも全く違う「不思議な力が存在する夢」なのかは決めにくい夢です。けれど夢は元々曖昧で、理不尽なものです。夢のやり方に習ってみるのも現代には必要な気がします。Aさんの夢も、名称は何であれ、彼は無事だったのです。夢も喜んでくれたことでしょう。

「予知夢」は、実は特別なものではありません。夢に興味を持つとそれだけで「もう一人の自分」は活発になり、はっきりしたメッセージをたくさん送ってくれるようになります。貴方が付き合いに慣れると、頻度の差はあれ、予知夢は混じってきます。ただし、いつも劇的な内容とは限りません。受け取る貴方の準備が整っているなら、必要な時に、必要な姿で表れますから、中には大きなことも含まれてくるかもしれません。それに、夢そのものより、自分を信頼する気持ちを思い出す必要がある時に、小さな予知夢が訪れることもあるようです。

しかしいずれにしても、夢はすぐ翌日に現実になるとは限りませんから、その時まで覚えておく必要があります。夢は、文字という現実世界の記号で起すと忘れにくいようです。予知夢を体験してみたい方は、まず夢日記で、もう一人の自分と親しくなりましょう。

2006年5月12日金曜日

落下する夢

夢の実例~他誌寄稿2006年5月

夢の中の感情は、目覚めても現実に持ち越されます。「何だ、夢か」とがっかりしたり「夢でよかった」とほっとしたりして目覚めた経験は皆さんお持ちでしょう。日常では理屈や合理主義で処理してしまった感情や、見てみぬふりの状況に目を向けてもらいたくて、夢は様々なアプローチをしかけます。落ちる夢はそのうちの一つです。

Fさん(35歳・男性)の夢
道を歩いている。少し脇を歩いてみると、そこにあったどぶ(側溝)に落ちる。はまっただけかと思ったら、底がなくてすごい速さで落下する。周りは暗く、落ちているのか止まっているかも解からなくなり、怖さで起き上がって眼が覚めた。

Hさん(39歳・女性)の夢
高いビルの屋上にいる。スーツ姿の女性たちが隣のビルに続く細い板を渡って行く。私も急かされて進んだが、足の踏み場を迷い、踏み外して落ちた。うつぶせに寝る形で落下した。でもすぐに、夢だから飛べばいいと思い出した。地面が迫る直前で成功し、低空飛行をしてから着地した。

夢解き

Fさんはこの頃、新しい仕事に挑戦していました。生活も不安定、周りに迷惑も掛け、次第に、本当にしたいことかさえも解からなくなっていました。道(=人生の本道)から、ちょっと脇を歩いたら(=仕事を変えたら)、側溝に足を踏み外して落下した(=人生の転落と深い闇に落ちてしまった)。夢の通り、進んでいるのか後退なのかもわからない、取り返しがつかない事態ではないかという恐怖が形になった夢です。

Fさんは現状に不安を持っていましたが、引き返すのは恥ずかしいことだと虚勢を張り、現実や本当の感情から目をそらして走り続けていました。 しかし、体感させられた目覚める前の「恐怖」はぬぐいようがありません。 誰が強要したわけでもない、自分が生み出したそれを、この期に及んで無視することは難しいものです。そのため、「立ち止まって、直面して!」というメッセージの夢に、感情はつきものです。Fさんもやっと直面する気になりました。その後、むしろ現実に触れたお陰で、具体的対応策に気づき、仕事は起動にのりました。

Hさんの夢は、落下だけでなく「飛ぶ」や「夢のコントロール」の意味が加わりますが、詳細はまた別に譲るとして、Hさんは意思を使い、夢の途中で恐怖を克服しました。夢の頃、Hさんは職場の組織再編の只中にいました。スーツの女性たちは同僚であり、自分の理想像だったのかもしれません。

彼女たちは、別の高いビル=別のハイレベルな仕事、に移っていきます。けれどHさんには決心がつきません。現実でも同じく、皆に習って新しい場所へ渡ろうとしましたが、本当は新しい仕事に自信がなく、昇進できても荷が重く、かえってボロが出るかもと不安だったそうです。

夢は本心を確認させてくれたと同時に、落ちた所までを疑似体験させてくれました。「落ちたらまた飛べばいい」それがHさんの結論でした。更に、「ビルの屋上=頭で考えるだけの状態より、着地した=地に足をつけて体感してみよう」という、気持ちに切り替わり、すっきりしたそうです。

落ちる夢を見た時は、まず、無理をしていないかを振り返ってみるとよいでしょう。特に、Fさんのように、がばっと起き上がって目を覚ましたり、叫びながら目覚めるような時は、「起きた貴方が続きを考えなさい」というメッセージの場合が多いようです。近頃の現実での出来事とも照らし合わせて考えてみてください。

又、余談ですが、もしFさんが女性問題で悩んでいたら、夢の意味は変わってきます。「溝」や「深い穴」には女性の意味もあるので、「彼女との関係に呑み込まれて自分を失うことを恐れている夢」だったかもしれません。自分で夢を考える時には、夢辞典の意味を切り張りにあてはめずに「自分にとってしっくりくる感じ」を大切に探ってみてください。

2006年5月11日木曜日

追われる夢

夢の実例~他誌寄稿2006年5月

「追われる夢」は目覚めが悪いものです。しかし「幽霊の正体見たり枯れ尾花」もし繰り返し見るなら、次回は逃げるのをやめてみましょう。そう思って眠るだけで、不思議と夢の中身が変わります。貴方の覚悟に、夢も応えてくれます。

Nさん(40歳・男性)の夢
幼稚園から小学校低学年頃まで何度も見た夢です。場面はその都度違いますが、いつも雪女が追いかけてきて、僕は走って逃げます。でも体は思うように動かずなかなか進めません。怖くて、はっと眼が覚めます。いつも汗をびっしょりかいていました。

Tさん(37歳・男性)
何者かに追われ、追い詰められる夢です。最初は電車の中にいます。そこから怪物のような何かが迫ってきて、いつの間にか舞台は変わって気がつくと断崖絶壁に追い詰められています。なぜ追われるのか、なにが追ってくるのか、明確にはわかりません。夢は大抵、追い詰められたところで終わります。

夢解き

子供の頃は、怖い夢をたくさん見ます。毎日初めてのことだらけで、昼間未消化だった思いを夢の中で発散し、整理するからだそうです。又、寝ている間も肉体は成長します。その違和感や、大人になる恐れが夢になる事もあるようです。又、夢で逃げるのは親からの自立の意味もあり、子供時代の悪夢は、それほど心配いりません。

ただNさんの場合は当時、家庭内が複雑でした。親達の事情により緊張が多い上に、何事もゆっくりだったNさんは「早くしなさい!」と母から叱責され=雪女の「冷たい息」をかけられ、「凍りついて」いたそうです。いつも冷や汗をかいた幼いNくんは、眠りながら本当の汗をかきました。お母さんもきっと一生懸命だったのでしょうが、雪女=「怖い母性」であり、Nさんはこの夢さえ話せませんでした。

Tさんの夢は「社会というレールの上を走る電車」からはじまります。もしTさんが、締め切りやノルマに追われていたなら、それが迫り、道がない=「時間がない、早く!」という夢にも取れます。しかし思い当たる節がないなら「正体が知れないのもの」=Tさんがはっきり認識できずにいる心の闇か、「認めてはいけない」と「拒否し続けている思い」が追ってくる夢でしょう。

例えば「組織や世間に沿うのが善」と決めていると、「独自性を発揮したい」という思いが沸いても、「自分には許してはいけないこと=悪」と退けて、現状を守ろうとすることがあります。時々「電車から降りて、自由に歩くのもいい」という「間の選択」が出来れば、「思い」は怪物にまではなりません。しかし現実で葛藤から逃げると、その分、夢では抑圧された思いの方が追いかけてきます。

崖の先に道はなく、今まで通りには進めません。自分の影の正体を確かめて対決するか、飛び降りて0から始めるか、どちらかです。結末がないまま目を覚ますのは「起きて考えて!」というメッセージです。 Tさんのような夢は、責任感が強すぎたり、感情を切り捨てやすい人、変化を恐れる時等に現れやすいようです。少し肩の力を抜き、自分を見直したい時ですから、身近な人に夢を話せるといいでしょう。聞く側も解釈より「それは怖かったね」と共感できれば充分です。

マレーシアの先住民族セノイは、毎朝、家族で前夜の夢を話し合うそうです。子供でも口下手な人でも、夢は雄弁です。日本では忙しい朝でしょうが、自由な気持ちで夢を語って、大切な人との理解や絆が深める時間が持てれば素敵なことだと思います。