2006年5月22日月曜日

探す夢

夢の実例~2006年7月他誌寄稿分より

映画「風と共に去りぬ」のヒロイン・スカーレットは、「霧の中で、何かを探してさまよう夢」を繰り返し見ます。うなされて目覚める彼女を、夫レットが抱きしめて言います。「お前が幸せになってくれればそんな夢は見なくなる。俺が幸せにする。」彼女は「探していた何か」を、映画の最後でやっと確認します。

私事ですが、ずいぶん昔に見たきりで、物語はうろ覚えなのに、何とも遣る瀬ない、この夢の顛末だけが鮮明に残っています。夢の中での探し物は、早く見つけておきたいものです。

Aさん(37歳・男性)の夢
中学時代から、今も時々見る夢です。何か大事なものを必死になって探している夢です。ゴミ集積所の様な場所でひどくあせりながら、ゴミをかき分けて探していたこともあります。何を探していたのか、具体的なものは思い出せません。しかし、とても重要なものである、という意識は夢の間中感じています。大抵の場合、探し続けて夢は終わります。

Kさん(41歳・女性)の夢
職場の皆と宴会に出席している。お座敷だったようで、帰る時に、皆は靴をはいている。私の靴だけがなくて探し回る。見つからずに眼が覚めた。

夢解き

Aさんはこの夢を、学生時代には試験や宿題に追いつめられた時、最近では仕事がハードな時に見たそうです。試験前や宿題が山積みの時なら「解答」を必死に探し、仕事がハードな時なら「任務完遂の手立て」を探していたのかもしれません。

しかし少し気になるのは、ゴミの中を探していた時です。ゴミは「不要なもの」、そして、夢の中の光景は「夢主の内面世界そのもの」なので、「してきたことや、自身の能力は役に立たないことばかり」と、自信が持てずにいたのかもしれません。

 けれど、世間的には「ゴミ」でも、常識に縛られない「夢の島」にはとんでもない宝の元が眠っている事があります。大きな発明や発見は、えてして非常識な発想から生まれます。周囲から「ゴミ」として片付けられ、Aさんも同調して捨てた考えの中に「とても重要なものがある」と感じていたのかもしれません。

いずれにしても、客観的に「今あるもの・ないもの・今後必要なもの・本当の目的や希望」等をリストアップして、大掃除が済めば「探しもの」は見つかることでしょう。

一方Kさんは、はっきり「靴」を探しています。靴には「社会的立場」の意味があります。目覚めたKさんはすぐに「久しぶりだ」と思ったそうです。10年程前、長年勤めた会社を辞め、その後の身のふり方を悩んだ頃に、靴を探す夢が続いた経験があったからです。

当時は、仕事の可能性も探りたい、実家からの独立も考えたい、「自分にふさわしい靴」=「地位や役割」は何だろうと探している頃でした。そして今回は、従事していたプロジェクトの人間関係を発端に、会社の方針に落胆と不信を、又、自分の能力への不安も感じた時でした。かつてのKさんは自分の居場所を探し、今のKさんは「私の靴だけない」=「私だけが評価されていない」という気持ちだったようです。

しかしKさんは、以前の夢以来の「頑張った自分」を思い出して「進みたい道なら、靴がなくとも裸足でも歩いてみよう」と決めました。10年前は「靴」を求めて新天地を目指した彼女でしたが、今回は自身の足で立つことを選択しました。そしてその甲斐があってか、その後状況は好転、むしろ以前よりよい「靴」を手にしたようです。

予知夢

夢の実例~他誌寄稿2006年5月

夢は、貴方から貴方へのメッセージです。もう一人の貴方は、映像や印象として、毎晩それを送り続けてくれます。もう一人の貴方は、現実の貴方よりもっとたくさんのことを知っているようです。目覚めている時の貴方には思いもよらない未来が、後に遭遇する場面とそっくりの姿で送られてくる、それが予知夢と呼ばれる夢です。

Yさん(40歳・女性)の夢
高校時代の夢。「学期途中に、新しい先生が来るいう夢を見た。1ヶ月後、担任が休養、非常勤の先生が来た」「数学のテストを受けた夢をみた。次のテストに同じ問題が出たので解けた」

Aさん(30歳・男性)の夢
「いつものように自転車で通勤する。角を曲がった所で車とぶつかり事故を起した。1週間後、夢と同じ角を曲がると、対向車線で、別の自転車と車が事故を起した場面に出くわした。」

夢解き

20歳頃までは時々予知夢を見たという人は、結構いらっしゃいます。若い頃は行動範囲もまだ狭く、些細な外界の刺激でも、大変な問題のように感じます。そのため「もう一人の自分」の情報収集量も常に多い時期なのかもしれません。更に「私は何者か」を探す頃でもあり、「現実の私自身」も「もう一人の自分」との接触に積極的な時代だからかもしれません。

例えば、多感だったYさんは、意識をしないまま、担任の顔色や動作から体調不良を感じていたのかもしれません。又、「この問題は出す」という雰囲気の先生を、視界に隅に収めていたのかもしれません。もしそうなら、この情報を送ってくれるのが「もう一人の自分」です。これは潜在知覚夢(=潜在的に知覚していた情報により、未来を推測した夢)と呼ばれていますが、本当の仕組みは謎です。

2本目は結末が違う予知夢です。実は、Aさんは、いつもぎりぎりに家を出ては、自転車を飛ばしていました。けれどこの夢以降、早めに出かけ、気をつけて通勤しました。そんな中、遭遇したのが、夢と似た他人の事故でした。Aさんは、夢のメッセージを大切にしたお陰で、自分の事故は回避出来たのかもしれません。自らで予知夢を外したとも云えます。でも「通勤時のその角での事故」は起こりました。

Yさんの夢以上に「潜在知覚夢」なのか「警告夢」(=現在の行動パターンから推測できる危険に注意を促す夢)だったのか、それとも全く違う「不思議な力が存在する夢」なのかは決めにくい夢です。けれど夢は元々曖昧で、理不尽なものです。夢のやり方に習ってみるのも現代には必要な気がします。Aさんの夢も、名称は何であれ、彼は無事だったのです。夢も喜んでくれたことでしょう。

「予知夢」は、実は特別なものではありません。夢に興味を持つとそれだけで「もう一人の自分」は活発になり、はっきりしたメッセージをたくさん送ってくれるようになります。貴方が付き合いに慣れると、頻度の差はあれ、予知夢は混じってきます。ただし、いつも劇的な内容とは限りません。受け取る貴方の準備が整っているなら、必要な時に、必要な姿で表れますから、中には大きなことも含まれてくるかもしれません。それに、夢そのものより、自分を信頼する気持ちを思い出す必要がある時に、小さな予知夢が訪れることもあるようです。

しかしいずれにしても、夢はすぐ翌日に現実になるとは限りませんから、その時まで覚えておく必要があります。夢は、文字という現実世界の記号で起すと忘れにくいようです。予知夢を体験してみたい方は、まず夢日記で、もう一人の自分と親しくなりましょう。

2006年5月12日金曜日

落下する夢

夢の実例~他誌寄稿2006年5月

夢の中の感情は、目覚めても現実に持ち越されます。「何だ、夢か」とがっかりしたり「夢でよかった」とほっとしたりして目覚めた経験は皆さんお持ちでしょう。日常では理屈や合理主義で処理してしまった感情や、見てみぬふりの状況に目を向けてもらいたくて、夢は様々なアプローチをしかけます。落ちる夢はそのうちの一つです。

Fさん(35歳・男性)の夢
道を歩いている。少し脇を歩いてみると、そこにあったどぶ(側溝)に落ちる。はまっただけかと思ったら、底がなくてすごい速さで落下する。周りは暗く、落ちているのか止まっているかも解からなくなり、怖さで起き上がって眼が覚めた。

Hさん(39歳・女性)の夢
高いビルの屋上にいる。スーツ姿の女性たちが隣のビルに続く細い板を渡って行く。私も急かされて進んだが、足の踏み場を迷い、踏み外して落ちた。うつぶせに寝る形で落下した。でもすぐに、夢だから飛べばいいと思い出した。地面が迫る直前で成功し、低空飛行をしてから着地した。

夢解き

Fさんはこの頃、新しい仕事に挑戦していました。生活も不安定、周りに迷惑も掛け、次第に、本当にしたいことかさえも解からなくなっていました。道(=人生の本道)から、ちょっと脇を歩いたら(=仕事を変えたら)、側溝に足を踏み外して落下した(=人生の転落と深い闇に落ちてしまった)。夢の通り、進んでいるのか後退なのかもわからない、取り返しがつかない事態ではないかという恐怖が形になった夢です。

Fさんは現状に不安を持っていましたが、引き返すのは恥ずかしいことだと虚勢を張り、現実や本当の感情から目をそらして走り続けていました。 しかし、体感させられた目覚める前の「恐怖」はぬぐいようがありません。 誰が強要したわけでもない、自分が生み出したそれを、この期に及んで無視することは難しいものです。そのため、「立ち止まって、直面して!」というメッセージの夢に、感情はつきものです。Fさんもやっと直面する気になりました。その後、むしろ現実に触れたお陰で、具体的対応策に気づき、仕事は起動にのりました。

Hさんの夢は、落下だけでなく「飛ぶ」や「夢のコントロール」の意味が加わりますが、詳細はまた別に譲るとして、Hさんは意思を使い、夢の途中で恐怖を克服しました。夢の頃、Hさんは職場の組織再編の只中にいました。スーツの女性たちは同僚であり、自分の理想像だったのかもしれません。

彼女たちは、別の高いビル=別のハイレベルな仕事、に移っていきます。けれどHさんには決心がつきません。現実でも同じく、皆に習って新しい場所へ渡ろうとしましたが、本当は新しい仕事に自信がなく、昇進できても荷が重く、かえってボロが出るかもと不安だったそうです。

夢は本心を確認させてくれたと同時に、落ちた所までを疑似体験させてくれました。「落ちたらまた飛べばいい」それがHさんの結論でした。更に、「ビルの屋上=頭で考えるだけの状態より、着地した=地に足をつけて体感してみよう」という、気持ちに切り替わり、すっきりしたそうです。

落ちる夢を見た時は、まず、無理をしていないかを振り返ってみるとよいでしょう。特に、Fさんのように、がばっと起き上がって目を覚ましたり、叫びながら目覚めるような時は、「起きた貴方が続きを考えなさい」というメッセージの場合が多いようです。近頃の現実での出来事とも照らし合わせて考えてみてください。

又、余談ですが、もしFさんが女性問題で悩んでいたら、夢の意味は変わってきます。「溝」や「深い穴」には女性の意味もあるので、「彼女との関係に呑み込まれて自分を失うことを恐れている夢」だったかもしれません。自分で夢を考える時には、夢辞典の意味を切り張りにあてはめずに「自分にとってしっくりくる感じ」を大切に探ってみてください。

2006年5月11日木曜日

追われる夢

夢の実例~他誌寄稿2006年5月

「追われる夢」は目覚めが悪いものです。しかし「幽霊の正体見たり枯れ尾花」もし繰り返し見るなら、次回は逃げるのをやめてみましょう。そう思って眠るだけで、不思議と夢の中身が変わります。貴方の覚悟に、夢も応えてくれます。

Nさん(40歳・男性)の夢
幼稚園から小学校低学年頃まで何度も見た夢です。場面はその都度違いますが、いつも雪女が追いかけてきて、僕は走って逃げます。でも体は思うように動かずなかなか進めません。怖くて、はっと眼が覚めます。いつも汗をびっしょりかいていました。

Tさん(37歳・男性)
何者かに追われ、追い詰められる夢です。最初は電車の中にいます。そこから怪物のような何かが迫ってきて、いつの間にか舞台は変わって気がつくと断崖絶壁に追い詰められています。なぜ追われるのか、なにが追ってくるのか、明確にはわかりません。夢は大抵、追い詰められたところで終わります。

夢解き

子供の頃は、怖い夢をたくさん見ます。毎日初めてのことだらけで、昼間未消化だった思いを夢の中で発散し、整理するからだそうです。又、寝ている間も肉体は成長します。その違和感や、大人になる恐れが夢になる事もあるようです。又、夢で逃げるのは親からの自立の意味もあり、子供時代の悪夢は、それほど心配いりません。

ただNさんの場合は当時、家庭内が複雑でした。親達の事情により緊張が多い上に、何事もゆっくりだったNさんは「早くしなさい!」と母から叱責され=雪女の「冷たい息」をかけられ、「凍りついて」いたそうです。いつも冷や汗をかいた幼いNくんは、眠りながら本当の汗をかきました。お母さんもきっと一生懸命だったのでしょうが、雪女=「怖い母性」であり、Nさんはこの夢さえ話せませんでした。

Tさんの夢は「社会というレールの上を走る電車」からはじまります。もしTさんが、締め切りやノルマに追われていたなら、それが迫り、道がない=「時間がない、早く!」という夢にも取れます。しかし思い当たる節がないなら「正体が知れないのもの」=Tさんがはっきり認識できずにいる心の闇か、「認めてはいけない」と「拒否し続けている思い」が追ってくる夢でしょう。

例えば「組織や世間に沿うのが善」と決めていると、「独自性を発揮したい」という思いが沸いても、「自分には許してはいけないこと=悪」と退けて、現状を守ろうとすることがあります。時々「電車から降りて、自由に歩くのもいい」という「間の選択」が出来れば、「思い」は怪物にまではなりません。しかし現実で葛藤から逃げると、その分、夢では抑圧された思いの方が追いかけてきます。

崖の先に道はなく、今まで通りには進めません。自分の影の正体を確かめて対決するか、飛び降りて0から始めるか、どちらかです。結末がないまま目を覚ますのは「起きて考えて!」というメッセージです。 Tさんのような夢は、責任感が強すぎたり、感情を切り捨てやすい人、変化を恐れる時等に現れやすいようです。少し肩の力を抜き、自分を見直したい時ですから、身近な人に夢を話せるといいでしょう。聞く側も解釈より「それは怖かったね」と共感できれば充分です。

マレーシアの先住民族セノイは、毎朝、家族で前夜の夢を話し合うそうです。子供でも口下手な人でも、夢は雄弁です。日本では忙しい朝でしょうが、自由な気持ちで夢を語って、大切な人との理解や絆が深める時間が持てれば素敵なことだと思います。