2008年4月18日金曜日

トマシーナ

ポール・ギャリコ/作 山田 蘭/訳 創元推理文庫




この本は、もうずいぶん長く、かなりの数の夢を一緒に解いて、お付き合いをいただいている愛猫家で語学のプロでいらっしゃるEさんから贈っていただいた本です。(改めて、Eさん、ありがとうございました。)

タイトルの「トマシーナ」とは、少女メアリー・ルーが可愛がっていた猫の名です。

物語はメアリー・ルーの父アンドリューの動物病院からはじまります。獣医であり父であるアンドリューは「腕はよく、治すのも早いが、殺すのも早い。動物に対する愛などまったくなく、神を信じることもない。」と町の人々から噂されている人物です。

メアリー・ルーの母は、かつて自宅と病院が一緒だった時に、入院していたオウムの病気に感染して亡くなりました。残された父と娘。父は娘をとても愛し、メアリー・ルーは、いつも猫のトマシーナを抱きしめています。

次の章では、その猫、トマシーナが、この家族について詳しく語ってくれます。愛猫家の作者ならではかもしれませんが、猫におしゃべりができたなら、まさに言いそうなことがつづられています。

しかしその後、トマシーナは病気になります。アンドリューはメアリー・ルーの懇願をよそに、彼は「トマシーナを眠らせる」と告げ、助手に安楽死を命じます。

メアリー・ルーは、かつて母を失った時、「お母さんは遠くへいってしまった」と説明されてました。だから今度も「トマシーナも遠くへ行ってしまった、二度とは戻らない」と悲しみます。そして同時に、父親も「遠くへ言ってしまった」と言い切ります。彼女は父を見ることもせず「知らない人」「あの人嫌い」と心を閉ざします。

メアリー・ルーと近所の子供たちはトマシーナを森に埋葬することにしました。そこは森の魔女と呼ばれる女性「ローリー」の家の近くでした。

彼女は「変人ローリー」と呼ばれる世捨て人であり、一方で、神や天使の声を聞き、怪我をした森の動物たちを治すと評判でした。この頃は町の人々も、娘さえ傷つけることをいとわない獣医師アンドリューは信頼できないと、このローリーに家畜やペットを診てもらい始めていました。

ローリーの家には沢山の動物が暮らしています。中には過去世の記憶を持つ猫もいたりします。ローリーの噂はアンドリューにも届きます。ある日彼は、場合によっては地域の衛生官としての権限をかざそうと、ローリーの家に向かいます。

娘を愛してやまないのに、娘には伝わらない、ぎくしゃくした伝え方しかできない父アンドリュー。当たり前のことですが、まだ幼くて、父の人生の背景や事情など全く想像もできないために、父を思いやることもかなわないメアリー・ルー。心を閉ざした娘は、やがて自ら死を望むかのように消耗していきます。 

娘である女性と、娘を持つお父さんに読んでいただきたい本なのですが、同時に娘を持つ母にも是非読んでいただきたいと思います。父と母、女性と男性の役割分担や違いのようなものを振り返ってもらえるかもしれません。

('08.4.18.)