2008年3月30日日曜日

こそあどの森の物語③「森のなかの海賊船」

岡田淳/作・絵 理論社

 

児童文学に分類される物語の力は大きくて、
大人の方が楽しめて、また心揺さぶられる気がします。

物語のおはなし第一回目は
1994年から始まった
「こそあどの森シリーズ」の3作目。

この森でもなければ、
その森でもない、
あの森でもなければ、
どの森でもない「こそあどの森」には、
風変わりな住人が暮らしています。

「森のなかの海賊船」は、
シリーズ1作目で登場した
森の外に住む「ナルホド」と「マサカ」が、
主人公「スキッパー」と
再会する所からはじまります。

森の奥でキャンプをしていると言う
ナルホドとマサカですが、
実は「森の中の海賊船」を
探していたのでした。

その海賊の名は、
100年以上前に実在したと
言われている「フラフラ」。
「海賊物語」には
残酷な海賊だと記録されている
フラフラです。

しかし「こそあどの森」に暮らす作家
「トワイエさん」は、
どうしてもそれが信じられないといいます。
なぜなら彼は、全く別の真実を暗示する
古書をもっていたからでした。

そこには、海賊といわれながら、
魔術師とも呼ばれていたフラフラが、
催眠術か手品で人を酔わせ、
金持ちからは興行収入をいただき、
貧しいものには元気を与えていた
のではないかと推察できる内容が記されていました。

ナルホドとマサカは、
自分たちの宝探しを「人生の宿題だ」
といいます。彼らにも森のなかにある
海賊船と宝をずっと捜す理由がありました。
森の住人は彼らに協力することを決め、
森に向かいます。

フラフラはなぜ海賊になったのか。
なぜ海ではなく、森のなかの海賊船の
伝説になっているのか。

真実がわかる中で
愛と憎しみや孤独が何を作っていくのか、
強い思いはどう残り
何を生み出していくのか、
心に落ちる気がしました。

岡田淳先生の挿絵も含めて200ページ強、
大人なら1~2時間もあれば
読み終わると思います。

勿論、できれば第一作から
順に読んでいただけると、
住人のキャラクターがよく解かり、
それが展開に深みを与えてくれて、
楽しさ倍増です。
('08.3.30.)


「物語のおはなし」はじめました

新しいコーナー「物語のおはなし」をはじめてみました。

夜眠って見る夢は、現実ではありませんが、それを見ている間は、リアルな体験のように感じます。

だからこそ理屈は通らなくとも、他の人には意味不明でも、夢主だけは一気に腑に落ちたりします。

自分がつむぎ出した自らの物語である夢は、百聞は一見にしかずと同じ浸透度で、現実ではないのに自分の経験にもなりうるものです。

それと同じで、優れた創作者がつむぎ出した物語は、 世の多くの人までもをその世界に招き入れ、 体験を与えてくれます。

一冊の本や一本の映画、或いは写真や歌が、人生を変えてくれたという人も少なくはないでしょうし、 そこまでいかずくとも、その時の自分にぴったりくる物語に触れると、理屈抜きですっきりしたり、 元気になることはあると思います。

それは、夢に解釈は必要なく、夢を見ただけで効果があるというのと、似ている気がします。

自分の物語を語ると生きる力が湧く、と、わたくしは思っています。そしてその自分の人生を語るには、他の沢山の物語に触れることが助けになってくれるのではないかとも。

元々、物語が好きであるという個人的な趣味で、好きな本について語りたいだけじゃないか、と言われれば、それもまた本当です。理屈はともかく、こんな思いも含めて、お付き合いいただければ嬉しいです。