宮部みゆき/作 新潮社
江戸深川の料理屋「ふね屋」は、12歳の少女[おりん]の父母が開いたばかりの店。
引っ越してきてまもなく、おりんは病に倒れ、高熱にうなされます。新居でもあるふね屋に、幾人かの先住人がいたことに気づいたのは、その時からでした。彼らは現身ではなく、侍のお化け「玄之助」、おりんにあかんべえをする同じ年頃の「お梅」、三味線を爪弾く艶っぽい姐さん「おみつ」、按摩の「笑い坊」等の面々。
おりんは玄之介に尋ねます。「お侍さんはお化けなんですよね?」「ずっとここにいるんですよね?」「ということは、あの、この家にあの、たたっているとかそういうことですか?」玄之介は答えます「祟らないと、居てはいかんのかな?」
「おばけ」といっても怖いものばかりではないと知るおりんでしたが、「ふね屋」開店の時、抜き身の刀が暴れだし、座敷は大変なことになります。
玄之介たちに助けられたものの、このままでは店は立ち行きません。おりんは店や家族を守る為、そして、おばけたちを成仏させるために、彼らと共に「この場所の謎」を解明し始める、長編時代ミステリーでありファンタジーです。
読後、人格、或いは魂と呼ばれるようなものの「再生」の物語だったと感じていました。
「亡者」になるには理由があるし、誰しもそうなる可能性があるけれど、どんな理由があっても、「亡者にならない道を選ぶことも出来る」と、登場人物みんなが応援してくれているかのようです。それに何と言っても「見えないものたち」との付き合い方をごく自然に語り伝えてくれる、嬉しい作品でもあります。
個人的な思いですが、日頃から、例えば、「引っ越した家に何かいたら嫌」とか「ここ、何かいるらしいね?!怖い」とか、はっきり解からない時ほど嫌そうな顔をしたりする人を見ると、悲しい気持ちになります。
むしろ「はっきり解からないからこそ」そんな風に反応しているのでしょうが、だったら逆に、まずは「はじめまして。お邪魔します」と言えないものかしら、と思います。
「それ」の「善悪」は別にして、殆どの場合、おそらくは、こちらの方が後から押しかけてきた侵入者、新参者のケースが多いのではないでしょうか。相手が何であれ、礼は尽くしたいものです。
あらためて言うまでもなく、自分の日常的ルールや社会の常識が全てではありません。
でも、頭では解かっていても、自分の範囲を超える未知を嫌悪したり、異質だからとつい排除しようとしたりしまうこともあるかもしれません。自分の常識を押し付けてコントロール下に置こうとしたり、或いは、人は弱いからこそ、我が物顔で侵略するような言動も取りがちかもしれません。
でもここは、強くいられるようになりたいなと、自然にそんなことを、再認識させてくれたようにも思います。
物語の力はやはり素晴らしい、と、あらためて実感させてくれた一冊です。
(2009.5.27.)